働き方

ライターから文房具ブランドオーナーに。「ないならつくろう」で生まれた『じぶんジカン』の企画術と届け方

佐伯有加里

「ないんだったらつくろう、と企画することが多いです」
そう話すのは、文房具ブランド『じぶんジカン』代表の松岡美希さん。

会社員、フリーランスのライターを経て、オリジナルノート累計販売数2万冊超のブランドを健やかに育ててきた彼女の企画の原点は「こんな商品があったらいいのに」というシンプルな思いでした。

「企画することに苦手意識を感じる」「情報発信が続かない」と悩む方にとって、ライター時代から企画そのものを楽しむ松岡さんの思考法はヒントになるはずです。

今回は、松岡さんが実践する企画の種を枯らさない具体的な方法、そしてコンセプトの考え方と共感を生むSNSの届け方について伺った対談イベントの様子をご紹介します。

松岡美希/『じぶんジカン』代表
「自分と向き合う時間をつくる」をテーマにした文房具ブランド『じぶんジカン』の代表。累計2万冊以上販売しているノートが人気商品。2024年12月からは、静岡県伊豆高原にひとり時間を楽しむための喫茶室も営む。1989年生まれ、神奈川生まれ東京育ち。
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多葉田愛(あい)/株式会社FLOW代表取締役
新卒で株式会社UDSに入社。その後、ワーキングホリデーを利用し、オーストラリアを拠点にフリーランス生活を送る。帰国後、株式会社TABIPPOに入社し、セールス・マーケティングを担当。 2023年に独立し、株式会社FLOWを設立。伴走型の広報支援と、書く+αのスキルが身につく「Marble」のスクール事業を展開。
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会社員からフリーランスへ『じぶんジカン』の原点

あい(敬称略):
まずは松岡さんのこれまでの歩みについて、お聞かせいただけますか?

松岡さん:
文房具を企画・製造販売するキングジムという会社に新卒で入社しました。当時からキングジムの広報は、SNSの発信に力を入れており、楽しそうだと思っていて。広報を希望して入社したものの、実際に配属されたのは経理でした。

2年会社勤めをしたあとはフリーランスになり、7年ほどライターや編集業、Webディレクターをしていました。それと同時並行で2019年に『じぶんジカン』というブランドを複業として立ち上げ、2022年からはブランドの運営に専念しています。

現在は静岡県の伊豆高原で、パートナーとともにカフェも営んでいます。

あい:
クライアントワークで収入を確保しつつ、副業で自分のやりたいことができるのがフリーランスの魅力ですよね。どのようにして『じぶんジカン』が生まれたのですか?

松岡さん:
もともとフリーランスとしてクライアントワークをするうちに、仕事を貰うよりも自分でつくりたいと感じるようになったんです。なにができるか考えたときに、ずっと大切にしてきたテーマ「自分が無理なく生きるにはどうしたらいいか」に立ち返りました。

これまでもブログでその想いを書いてきましたし、ノートを書くことや自分への問いを考えること、文房具が好きなことなど、自分の「得意」や「好き」を整理してみたんです。

そのすべてがつながり、「ノートをつくってみよう」とひらめいたのが、『じぶんジカン』が動き出すきっかけになりました。

「自分」を主語に。ちいさなブランドのつくり方

あい:
『じぶんジカン』のコンセプトやネーミングはどう決めたのですか?

松岡さん:
コンセプトは、ブランドとして伝えたいことをわかりやすく表せる言葉にしようと、試行錯誤し、最終的に「自分と向き合う時間をつくる」という表現に落ち着きました

ネーミングは、わかりやすさを意識しています。ブランドを届けたい人として「過去の自分」を想定しているのですが、おしゃれにしすぎるとアート寄りの印象になり、届きづらいと感じて。

なにをやっているかわかりやすいことと、ネットで検索してまだこの世に存在していない名前を考えました。

あい:
私が運営している広報チーム『ふたり広報』もわかりやすいので、覚えやすいと言ってもらうことが多い気がします。検索のしやすさも大事なポイントですよね。商品企画は、日ごろから意識してインプットしているのですか?

松岡さん:
意識的にインプットしているというより、日々のなかで「こういうのがあったらいいのに」と頭のなかに付箋を貼っている感覚があります。「あったらいいのに」を起点に、実際のモノやサービスを探し、「ないんだったらつくろう」と企画することが多いです。つねにアイデアをストックしています。

あい:
なるほど。実体験があると、シーンがイメージしやすいですよね。そのなかで、オリジナリティはどのように出しているのですか?

松岡さん:
実は、オリジナリティを出そうと考えたことがなくて、自分が欲しくてつくっています。ブランドを自分が好きだと思える場所にしていくことが、結果的に差別化やオリジナリティにつながっているのかなと。

企業だと、利益を求めるために「需要があるからつくろう」という企画の立て方もあると思いますが、個人がやっているちいさなブランドは、アイデアを起点に自分を主語にできます

そこが、ちいさなブランドのメリットでもありますね。自分がとても欲しいと思ったものは、きっと世の中に欲しい人が少なくともいるはずだって思うんです。

過程から伝えることが大事。SNSでのブランドの届け方

あい:
想いをどう届けていくかについてもお伺いします。松岡さんは商品をつくるとき、その制作過程もSNSで発信されていますよね。

松岡さん:
過程から伝えることをとても大切にしています。楽しい部分はみんなで一緒に共有したほうがより楽しい、という感覚ですね。

急に「発売します」と商品を出されるよりも、紙を選んでいるところや、なぜこのリングを選んだのか、など背景がわかっているほうが面白いと思うんです。SNSを通して細やかに共有しながら楽しんできました。

あい:
広報的にもおもしろい視点ですね!背景を身近に感じることで一体感が生まれて「この人だから応援したい」と、人ごと推してもらえる商品になると思うので、すごく大切だと感じました。SNSの使い分けはどうされていますか?

松岡さん:
「自分と向き合う時間をつくる」というコンセプトに合っているものは全部『じぶんジカン』として、それ以外は個人として発信してきました。Instagramがメインで、ほかにもXやThreads、YouTubeなどSNSをたくさんやっているので、それぞれなんのために発信しているのか目的を設定しています。

たとえば「新しい人に知ってもらおう」とか「既に知ってくれている人とのつながりを大事にしよう」などと設定しているので、全部のSNSで同じ発信をしているわけではないんです。

あい:
松岡さんのnoteは、プロダクトの紹介もあれば、ブランド運営の裏側をテーマとした記事もありますよね。どのような意図で発信内容を分けているのですか?

松岡さん:
noteには2つ目的があるんです。1つは無料の記事でエッセイを投稿し、どんな人がどんな想いでブランド運営しているのか、自己開示のつもりで出しています。

もう1つのメンバーシップ(有料)では、既存のユーザーさんや自分と向き合う時間を大事にしてる方、コンセプトに共感してくださってる方とつながりを持つことを大事にしています。

あい:
SNSの使い分けだけでなく、発信内容の分け方に悩んでる方も多いと思うので、ヒントになりますね!とはいえ、さまざまなSNSで発信されているなかで、発信することが思い浮かばなくなってしまうことはないのでしょうか?

松岡さん:
発信することが思い浮かばなくなることもあります(笑)。そういうときは過去のコンテンツを新しい角度で出しています。

発信側は「1回言った同じコンテンツをもう1回発信するのはよくない」と思いがちです。でも、受け手側で考えてみたとき、同じようなことをずっと言ってくれる人がいると、メッセージが響きやすくなると思うんです。

同じことを何度でも言っていいし、同じことを繰り返し発信することが実はとっても大切で。『じぶんジカン』のInstagramも「自分と向き合う時間をつくる」というコンセプトをさまざまな角度から言っているだけなんですよ。発信の角度を探したり、掛け算で考えたりすることを続けています。

自分色100%の企画に挑戦する人が増えてほしい

あい:
最後に松岡さんから、企画づくりに携わっている方々へメッセージをお願いします。

松岡さん:
私は企画をするのが本当に好きで「企画ばっかりして生きていきたい」と思っているぐらいで。ノートの発送や製本などはパートナーや製本会社さんに任せて、私は企画を楽しんでいます(笑)。

クライアントワークをしていたころの企画もすごく楽しいものでした。でも、そこでは経験できない、自分色100%の企画を自分のブランドで形にしてくのは、また違った楽しさがあります。だからこそ、挑戦する人が増えたらいいなと思います。

***

「企画ばかりして生きていきたい」という松岡さんの飾らない率直な言葉からは、企画そのものを心から楽しんでいる気持ちが伝わってきました。

企画の種は頭のなかの付箋にある、コンセプトは角度を変えて何度も言っていい、という発想は、企画を課題ではなく楽しいこととして捉える視点を与えてくれます。

これらのヒントが、企画や発信への心理的なハードルを下げ、あなたの「行動してみよう!」という一歩を後押しできたら幸いです。

〈執筆=やきいも/ 編集=ゆかりーぬ

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