「うまく書けない日も、未来の文章の種になる」渋谷祥平さんが語る、“がんばらずに書く”を続けるためのヒント
「書きたいのに、書けない」「うまく書こうとすると手が止まってしまう」
このように、文章を書くことに悩んだことはありませんか?
書くことを生業にしていなくても、仕事や日常のなかで「言葉にしなければいけない場面」は意外と多いものです。でも、いざ書こうとすると、白い画面を前に言葉が出てこない経験がある方もいるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、「書けない」に伴走する個人のための編集者『パーソナル編集者®』として活動する渋谷祥平さん。自身も書くことに悩んできたと言う渋谷さんが、書く経験を積み重ねるなかで見つけた“がんばらずに書き続ける”ためのヒントを教えてくれました。
渋谷祥平/パーソナル編集者®
愛知県瀬戸市出身。特別支援教育の現場で7年間教員を務めたのち、現在は「書きたいけど、なにを書けばいいかわからない」という人に寄り添う『パーソナル編集者®』として活動中。通級指導教室で培った1on1支援を通じ、人の悩みにじっくり向き合い、個人の「伝えたい想い」をていねいに言葉にするサポートを行っている。
「自分が書く意味はあるのか?」自問自答していた渋谷さんが『パーソナル編集者®』になるまで
――まず、渋谷さんが「書く」ことを始めたきっかけを教えてください。
学生時代は、正直そこまで「書くこと」に興味はなかったんです。でも、社会人になって公務員として働きはじめてから、同世代が発信を通じて収入を得ているのを見て、「自分もなにかやってみたい」と思うようになりました。
そんなとき、転任してきた先生にnoteのことを教えてもらい、そこで初めて投稿したのが私の「書く」の始まりです。
――当時はどんなことを書いていたのでしょうか?
最初は自分の関心のあるテーマを書いていましたが、なかなか読まれず…。「これって、自分が書く意味はあるのか?」と悩む日々が続きました。何度も書いては消して、を繰り返していましたね。
とは言え、最初から「自分にしか書けないこと」を模索することは難しい。そこで、自分がよく読んでいる記事や好きなnoteからヒントをもらって、同じテーマで書いてみるなど、真似をするところから始めました。それを繰り返していくうちに、少しずつうまく書けるようになっていく感覚がありましたね。
――そこから、なぜパーソナル編集者®として活動することになったんですか?
もともと特別支援教育の現場で7年間教員をしていたのですが、そのなかで「集団よりも、1対1で人と向き合うほうが自分には向いている」と感じて。その後のキャリアに悩んでいたときに、パーソナル編集者®として活動しているみずのけいすけさんと出会い、相談するなかで誘っていただいたんです。
振り返ると、僕はずっと「1対1で話すこと」を大切にしてきました。パーソナル編集者®の仕事は天職だと思っています。
「何を書けばいいかわからない!」ときは、いきなり書きはじめない
――書けない時期を経て、今では定期的にnoteを更新している渋谷さんですが、いつもどのように書いているんですか?
僕の場合、白紙の状態から文章を書き始めるのがすごく苦手なんです。noteの編集画面を開いてから書こうとすると、どうしても気負って筆が止まってしまって。
そこでまずは、A4の紙を1枚用意して、頭に浮かんだことや感じていることを思うままに書き出しています。思考をメモするように、浮かんだことや感じていることを自由に書き連ねることで、気持ちを整理していくんです。そのあと、メモを見返しながら伝えたいポイントを探し、矢印を引いたり書き足したりしながら構成を練っていきます。書きながら考えることで、頭のなかがクリアになり、書くハードルがぐっと下がるんです。
――なるほど。いきなり書きはじめるのではなく、まずは整理することから始めるんですね。
最近はChatGPTなどのAIツールの音声入力機能を使い、話した内容をテキスト化して、それをベースに文章を組み立てることも増えました。思考の流れを止めずに書けるのがありがたいですね。
このステップを踏むことで、書きはじめるまでのストレスが少なくなり、継続して書けるようになりました。
――実際に書いてみると、思うように書けなくて歯痒いことがあります。下書きのまま封印されているnoteが山積みで。渋谷さんはどうしていますか?
僕が一番大事にしているのは、「完璧を目指さない」ことですね。最初から上手に書こうとしない。結果的にそれで失敗したり拙い文章になったりしても、多くの読者はそこまで気にしないと思うんです。
「スベってもいいよ」「まずは楽しもう!」という気持ちで書いて、自分にOKを出してあげてください。
そもそも、文章を書くことや情報を発信することは、「生み出す側」に立つこと。それだけでとても価値があると思うんです。
noteを書いている人自体が少数派ですし、発信すること自体が珍しくて特別なことだから、「書いた」だけで100点満点。まずは書ききることをゴールにしましょう。
「自分らしさ」を追求するより、「自分が書ける範囲」で表現しよう
――書いているうちに、「これって、おもしろいのかな」と悩むことがあります。「自分にしか書けないnote」はどうしたら書けるようになると思いますか?
うーん、わかる!(笑)僕も最初のころは「誰もやってないことを書こう」と必死でオリジナルなテーマを探していました。でも、大体の情報ってWikipediaに載っているので、自分にしか書けるものなんて見つからなかったんです。
今では、無理にアイデアをひねり出すよりも、好きな書き手やよく読む記事から、良いと思うところを素直に真似するほうがうまくいくと実感しています。
僕も、好きなガジェットインフルエンサーがお仕事デスクについて紹介していたので、自分も同じように紹介してみたら、たくさんの人に読んでもらえました。

――これ、全然真似だとわからないです。渋谷さんらしさが溢れているというか。
そうなんです!結局真似をしても、文章には自然と自分らしさがにじみ出てくるんですよね。だから、「自分にしか書けないもの」にこだわるのではなく、「自分が書ける範囲」で、素直に表現していけばいいと思います。
――好きな記事やnoteを探すほかに、渋谷さんはどのように書くネタを探していますか?
僕が重きをおいているのは「人と話す時間」です。人との対話が、僕にとってはすごく豊かなものに感じるんですよね。意図的にでも、誰かと話す時間をつくるようにしていますし、そういう時間を「楽しい」と思えること自体が大切だと思うんですよね。
たとえば、話しているなかで「それ、面白いね」と言われたり、「それってどういうこと?」と聞かれたりすることで、「書いてみようかな」って気持ちが湧いてくる。共感されたことや質問されたことが、「書くネタ」になるんです。
ただ、必ずしもみんなが対話の時間を作る必要はないとも思っていて。どちらかと言うと、人生のなかで楽しい時間をたくさん持つことが、結果的に書くことを支えてくれると思うので、自分にとっての「楽しい時間」が見つけられるといいんじゃないかと思います。
「書けない」気持ちも大切に。楽しく「書く」を続けるために
――渋谷さんが、「書く」を続けるうえで意識していることはありますか?
ひとつの出来事を、いろんな角度から書くことですね。
多くの書き手は、1本の記事のなかで話を完結させようとするんですよね。でも、たとえば「旅行」に出かけたとしたら、「旅行記」だけに留まらず、「旅行で使ったカバンの中身」や「旅先で買ってよかったもの」など、いろんな切り口で書けるはずなんです。
ひとつの出来事から、3本も4本も記事を生み出せるんです。
切り口を変えれば「1回書いて終わり」ではなくて、関連性を持たせて複数回に渡って書くことができます。
連載のように続けて投稿することで、自分自身もネタに困りにくくなるし、読者にとっても「また読みたい」と思ってもらえる。続きを楽しみにしてもらえる記事が増えると、リアクションも自然と増えていく気がします。
――最後に、書くことに自信がなくて悩んでいる読者に、メッセージをお願いします。
「書くことに自信なんて必要ない」と伝えています。実際、自信がある人ばかりが書いているわけじゃないですし、むしろ「書けない」と感じているその気持ち自体を書いてみるのも全然アリだと思いますよ。
もし今、「書けない」と感じているなら、それは「今は書きたくない」というサインかもしれません。そんなときは無理せず、いったん「書かないモード」に切り替えて、旅行に出かけたり、自然の中で過ごしたり、美味しいものを食べたり、画面の外の世界を楽しむ時間を持つことが大切だと思います。
そうやって自分のペースで過ごしているうちに、また自然と「書きたい」という気持ちが戻ってくることも多いんですよ。「書けないと悩むこと」は書くことに真剣に向き合っている証拠。「書きたい」という気持ちが湧くだけでも、前向きな一歩です。
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「完璧を目指さなくていい」という渋谷さんの言葉に、ふっと心が軽くなりました。
「書けない」と感じるとき、そこには「うまく書かなきゃ」「人に見せるには不十分かも」という不安があるのかもしれません。
私が執筆したこのインタビュー記事も最初から完璧に書けたわけではありません。インタビューで渋谷さんに話してもらった言葉を文字に起こし、構成や表現を整えながら、試行錯誤を繰り返して少しずつ形にしていったのです。
その過程で渋谷さんの言葉に励まされ、「うまく書けなくても、自分のペースで続けていけばいい」と思えるようになりました。書くことは誰かと比べるためにあるのではなく、自分と向き合う時間でもあるからこそ、心のままに、無理なく言葉を紡いでいけると気楽に書けるのかもしれません。

