書く技術、聞く技術

「“人の共通感情”を揺さぶれ」新R25副編集長が語る、タイパ時代に“読ませる”編集力とは

佐伯有加里

「記事の編集を任される機会が増えたけれど、編集者視点の判断ができない」
「いい記事ができたと思っても、読まれず反響がない」

そんな悩みを抱える方は少なくありません。ただ“伝える”だけでは足りず、“届く形”にまで整える力が問われています。

今回は、新R25副編集長の天野俊吉さんに、読まれるコンテンツの裏側にある編集思考や、編集力を磨くための日々の習慣について伺いました。

「いい記事」から「届く記事」を目指したい方は必見です!

天野俊吉/新R25副編集長

新卒で出版社に入社し、営業を経験した後、2012年にリクルート社発行のフリーマガジン『R25』編集部へ。2017年の『R25』休刊を経て、サイバーエージェント運営のWebメディア『新R25』創刊メンバーとなり、現在は副編集長を務める。

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“成立している”だけでは届かない。世の中に影響を与えるための「編集力」

―― 天野さんにとって「編集力」とは、どのような力だと思いますか?

「意志を持って決める力」です。

編集の現場には、情報や素材、関係者の意図など、さまざまな要素が入り混じっています。そのなかで、自分なりの判断軸を持ち、最終的に「何をどう伝えるか」を決めることこそが、世の中に影響を与える編集の本質だと思っていて。

そのためにやるべきは、プロジェクト全体を見渡して、自律的に動くことです。たとえばサッカーでも、状況に応じて空いたスペースを埋めたり、こぼれ球を拾ったりできる視野の広さや判断の柔軟さが求められますよね。

ライターも編集者も同様に、全体を見て意思決定することが求められていると思います。

「新R25」で天野さんが担当したコンテンツ

―― 文章を読みやすく整えることだけが編集ではないのですね。

僕も、フォーマットに沿って整えただけの記事をひたすら量産したこともありました。でも、Webメディア「新R25」へと移行してしばらくしたとき、社内で「これは本当に意味のある発信なのか?」と議論になったんです。

そのとき初めて、記事として“成立している”だけでは、世の中には届かないと実感しました。いくら体裁が整っていても、読者の心を動かさなければ世に出す意味がない、って。

それを機に「広がるコンテンツ」を強く意識するようになり、「どうすれば世の中にインパクトを与えられるのか」を第一に考えながら、コンテンツ制作に向き合うようになりましたね。

読者の期待を意図的に外す。拡散されるコンテンツの裏にある、“感情”の設計

―― 天野さんが「拡散されそう」と感じる企画には、どんな共通点がありますか?

正直に言うと、今は「企画そのものだけで記事が大きく拡散される」時代ではないんです。偶発的に起こることもあるけど、それはタイミングや発信者の影響力など、さまざまな要素が掛け合わさった結果でしかない。

そのなかで意識しているのが、“読者の期待や前提を意図的に外すこと”です。

たとえば、よくある社員インタビューは、その会社に興味がある人以外は絶対に読まないですよね。だからこそ、「当事者以外にも伝えたくなる意外性」を企画段階から意識的に仕込む必要があります。

―― 意外性…どのように仕込むのでしょうか?

タイトルが目に留まった瞬間にクリックされて、読後は誰かに伝えたくなる。この一連の流れをどう設計するかが勝負です。

とくに最近はショート動画の台頭もあり、「言葉で丁寧に説明して理解してもらう」のではなく、「一目見たら伝わる」瞬間的に本能に訴えかける体験設計が求められている気がします。

一目見たら内容が伝わる設計

―― じっくり読ませるよりも“感じさせる”んですね。

拡散されるコンテンツの裏には、必ず読者の感情があります。たとえば、「これをシェアしたら自分がかっこよく見える」という承認欲求、「自分の報われない経験に重なる」という共感、「この人だから応援したい」という帰属意識。複雑な動機が絡み合ってシェアを生みます。

そこで、編集や構成の段階で「どの感情にどうフックさせるか」を決めて、「この情報は読者のどんな感情を動かすか?」を踏まえて組み立てるようにしています。

―― とはいえ、想定読者が自分と遠い属性だと、感情をイメージしにくいこともありますよね。

やっぱり想像力は必要不可欠ですよね。読者は「この言葉をどう受け取るか」「どこに引っかかりを感じるか」を徹底的に想像するようにしています。

たとえば、元乃木坂46・中田花奈さんの記事では、25〜35歳のビジネスパーソンとアイドル、一見何の共通点もないように思えますよね。

戦っている人ほど、ネガティブにも努力家にもなれる。中田花奈「やめよう」からの“返り咲き”のワケ
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でも、性別や職業、年代が違っても「褒められたらうれしい」「馬鹿にされたら腹が立つ」という、“人間としての共通感情”があります。それを丁寧に想像して、取材対象者と読者の感情がうまく重なるように、言葉や構成のトーンを設計していきました。

モヤッとした瞬間を「伝わるおもしろさ」に変える習慣

―― 感情を意識した記事を生み出すために、習慣にしていることはありますか。

日々の生活のなかで、内省する習慣があります。街を歩いていて違和感を覚えたときや、人との会話でモヤッとしたときには、忘れずにメモして掘り下げるようにしていますね。

最近だと、ふと「人から漫画やアニメをすすめられても、1話で離脱してしまうことが増えたな」と思う場面があって。

自分の老化なのか、作品の質が昔と変わったのか。その疑問をそのまま、「漫画の編集者に聞いてみた」という企画にしました(笑)。日常の違和感を起点に深掘りしてみると、企画の輪郭が見えてくるんです。

天野さんの内省から生まれた企画

―― 天野さんは違和感を自然に企画に落とし込んでいるように見えますが、もともと得意だったのですか?

全然! むしろ、訓練によって身につけたんじゃないかな…。

25歳のころから、毎週のように編集部の企画会議で企画を出しつづけなければいけない環境で過ごしていたので、「おもしろいと思ってもらえなかったら死ぬ」というプレッシャーと隣り合わせでした(笑)。

おかげで、日常の違和感を“人に伝わるおもしろさ”に変換する力が鍛えられたと思います。内省をするついでに、おもしろく受け取ってもらえる言い回しや表現を考える癖もつきました。伝えたい本質は同じでも、見せ方次第で読者の反応は大きく変わりますよ。

―― 企画会議がないなかで、日常で表現力を鍛える方法はありますか?

インプットとアウトプットの両軸を回すことです。キャリアのなかでいろいろなライターさんの原稿を読ませてもらって、「アウトプットだけでは、クオリティは上がらない。いいアウトプットをしている人はインプットが強い」と感じました。

―― なるほど、どちらも大事なのですね。

そうですね。そしてアウトプットは小さくても良いと思っています。どんなに練られたアイデアでも、ひとりで考えているだけでは、“世の中のリアクション”はわかりません。

小さくても反応が返ってくる場で出すことで、通用する企画の感覚が養われると思います。SNSに企画案を投稿してみたり、誰かに話してみたり。コミュニティ内で発表してみるのも良いかもしれませんね。

信頼されるのは「話がわかるやつ」。AI時代に必要な編集者とは

―― これから編集者は、社会のなかでどんな役割を果たす存在になると思いますか?

「話がわかる人」。つまり、ビジネスや組織の意図を正確に汲み取り、的確にコンテンツに落とし込める存在です。

編集者は、発信する側の届けたい想いや目的を理解し、読者が何を求め、何に共感するのかを捉えたうえで双方を調整する役割を担います。

「この人なら話が通じる」「ちゃんと理解してくれる」と思われる編集者であれば、自然と信頼され、仕事の中心に置かれていくはずです。そのためには、一定以上の社会構造への理解と、世の中の風潮を察知する感度が必要になってきます。

―― 社会に対して、アンテナをつねに張り続けるのが大切なんですね。最後に「編集の力をつけたい」と考えている方に向けて、アドバイスをお願いします。

まずは、本を読むことをおすすめします。たとえば明治時代ぐらい昔の本を読んでいると、時代背景が違っても登場人物の感情や悩みには、普遍的なものが多く含まれているんですよね。

古典を通じて「人はこんなことに悩んで、こう考える」という感覚のストックが手に入る気がしていて。“人間の共通項”を知っていると、現代の読者に向けたコンテンツをつくるときにも、感情に共感しやすくなると思います。

もうひとつは、刺激的な人と会うことです。自分とはまったく異なる価値観やエネルギーを持つ人と接すると、最初は理解できなくても、次第にその人たちの考えや求めるものがわかるようになっていくんです。

これが、「話がわかる人」になる近道です。自分の安定をぶち壊してくれるような価値観の人と出会うと、自分の思考の癖や視点の違いに気づけるんですよね。

そこで、自分が“普通のものを作ろうとしてた”ことに気づく。だからこそ、価値観を揺さぶってくれるような人との接点を、意識的に持ってみてほしいです。

***

終始言葉を選びながらも、熱を込めて語ってくれた天野さん。取材のなかで印象に残ったのは、「何かを伝えるのが、世の中的にハードルが⾼くなっている」という言葉です。

本能を刺激するような瞬間的な伝わり方が求められる今の時代に、どんなコンテンツを届けるべきか。読者の感情を揺さぶることの大切さを、改めて実感しました。

ライターとして、「誰のどんな感情を動かしたいのか?」と考える習慣を大切にしていこうと感じた取材でした。

〈取材・文=石田千尋/編集=ゆかりーぬいしかわゆき


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